翌日から、平日の放課後を劇の練習に費やすこととなった。

と言っても、本番はまだ先。

キャストと演出は借りた進路指導室で、制服のまま椅子に座って台本を読む。


「で、ではおばさま、お花を摘みに行って参ります……」


緊張のあまり完全に棒読みの私。

だって演技なんて、小学生のときの学芸会以来だもの。


「くくく……」


あまりのポンコツぶりに、隣に座る健斗が肩を揺らして笑う。

もう、何よ! 笑えるのはわかるけど、ちょっとは我慢してよね!


「何て美しいひとだろう。こんなに美しい人は見たことがない。セリフ、棒読みだけど」


自分の番になって、そんなアドリブをかます健斗は、私よりはいくらかマシみたい。


「あのう、もう少し真面目にやってください」


演出さんは顔を赤くしてちょっと怒っている。

けど、他の出演者はみんなクスクス笑っていた。

友達もいなくて、周りとなじもうとしなかった健斗は、周りの生徒にとって全くの謎キャラだった。

だけど本当は、普通に笑う、普通の男の子だってことが少しずつわかってもらえるといいな。