「ああ、あそこらの花火って毎年早い時期にやるのよね」
自宅のキッチンでお母さんの手伝いをしながら花火の話題を振ってみると、お母さんは軽く相槌をうった。
その手元のフライパンでは、美味しそうな麻婆ナスが出来上がろうとしている。
「友達に誘われたんだけど、行っても良い?」
ストレートに聞くと、お母さんはフライパンに仕上げのごま油をたらす手を止めた。
「友達って、誰?」
「……水沢くんっていう、理系の男子」
下手な嘘をついたって、すぐにばれてしまう。
私は正直にそう申告した。
「初めて聞く名前ね」
「最近、仲良くなった」
「もしかして、彼氏?」
そう聞かれ、一瞬言葉に詰まった。
そのすきを突くように、お母さんがごま油を慎重にフライパンの中へ回し入れた。
「うん」
私はうなずいた。
お母さんは、やっと手を完全に止めてこっちを見る。
「うーん。どうぞ行ってらっしゃいとは言えないな」
その眉間には、深いシワが。



