「今、広瀬さんにオーロラ姫役をオファーしていたところなんですっ」
突然割り込んでくる、演出さん。
「へー。瑞穂が相手なら、助かるわ」
「うっ」
「瑞穂はいいの? 俺が他の女子とダンスしてキスしても」
小首をかしげ、長い前髪の間から茶色の瞳をのぞかせる健斗。
その微笑みは自らの美貌で人を惑わせる悪魔を思わせた。
「ううう~」
そんなの、嫌に決まってる。
でも私、本番は出られないんだよ。
正直にそう言うわけにもいかず、私はしぶしぶうなずいてしまった。
「わかった。やるよ。後半寝てるだけだし」
そう言うと、演出さんは飛び上がって喜んだ。
ああ、本当にごめんなさい。あなた、文化祭前にもっと困ることになるよ……。
心の中で詫びながら、先にオファーを受けてしまっていた健斗をうらめしく見つめる。
彼は何も知らず、貸した教科書で口元を隠して笑っていた。



