「ちがうんですか……!?」

 驚く彼女に、僕はうなづいた。

「僕の場合は……旅、です」

「旅?」

「ええ、僕は数字を別なイメージで捉えています。
 例えば『3』は、青空。
 『14』は、草原と言った具合に。
 ほら、こう考えると、円周率の冒頭。
 3.14だけでも、晴れた日の草原が見えてきませんか……?
 そうやって造ったイメージの中を、決められた道筋で歩いてゆくと。
 どんなに大きい数でも、正確に思い出すことが出来るんです。」

「……そう、なんですか……」

 あいまいにうなづく井上教授に、僕はため息をついた。

 こんな感覚、判らないかな?

 ……って。

 今まで、こんな事を言ってちゃんと判ってくれる人はいなくて。

 僕の恋人の奈々でさえ。

 この感覚を共有するわけには、いかなかった。

 だから別に。

 井上教授に判ってもらえなくても、寂しくは、ない。