「姉ちゃん、何してるんだ?」

 先に帰っていた弟の架(かける)だった。

「ちょっとむせただけよ」

「なんかつっけんどんな言い方だな。学校でなんかあったんだろう」

「うるさいわね。あんたには関係ないの」

「あーそうですか。折角心配してやったのに」

「あんたの心配なんて要らないわよ。それよりもブンジはあんたの部屋なの? 家に帰ってきてもお出迎えがなかったから、あんた部屋に閉じ込めて独り占めしてるんでしょ」

「ブンジならお母さんが獣医に連れて行ったよ」

「えっ、どうして? ブンジどうかしたの?」

「なんか気だるそうにじっとしてたみたいなんだって。熱でもあるんじゃないかなって言ってた」

「やだ、ブンちゃんが病気だなんて」

「でも大丈夫なんじゃないの。猫だって風邪くらい引くだろうし。今季節の変わり目だから体調崩してるんだよ」

 私がオロオロとしているのに、架は何事もないように言いながら、居間のソファに座ってテレビを観だした。

 薄情な奴と思い、私は鞄を手にして自分の部屋に向かう。

 その途中で、架の部屋のドアが開いていてふと中を何気に覗いたとき、机の上に置いていたノートパソコンが目に入った。

 そこには猫の画像とともに、様々な猫の病気についての記述がなされているページが開いていた。

 色々と検索して調べていたようだった。

 架は架なりにブンジの事を心配していた。

 その行為がなんだかいじらしい。

 自分なりに納得しようと情報を集めた上で架は落ち着かない気持ちを解決しようとしていた。

 普段部屋で閉じこもり気味になるのに、ブンジが戻ってくるまで落ち着かず居間でテレビを観て過ごそうとしているのだろう。

 架の方が自分よりしっかりとしているように思えた。

 もちろん病気の事は心配だが、私は早くブンジを抱きしめて、愚痴を聞いてもらいたい気持ちの方が強かった。

 こういう時は猫を抱きしめると、とても落ち着く。

 ブンジは抱かれるのが大好きだから、いつまでも抱っこして気を紛らわしたい気分だった。

 嫌なときは猫を抱きしめていつまでもその可愛い顔を見つめていたい。

 それが私のストレス解消法でもある。

 猫好きな人なら絶対理解してもらえるだろう。

 ブンちゃん、ブンちゃん、ブンちゃん!

 早く帰って来て。

 自分の部屋に入るなり、鞄を放りなげ、そしてどかっとベッドに腰を下ろせば、背中が丸まりそして溜息が大きく一つ出てきた。

 暫くそのままでボーっと過ごしてしまった。

 そうしてるうちに母がブンジと獣医から戻ってきた。

 私も架もすぐに母とブンジを取り囲んだ。

 床にそっとケージが置かれ、それを覗き込むと、ブンジは緊張した面持ちで体を縮こませ、這い蹲るように伏せていた。