「…ばーか!」
あたしが叫ぶと良平は振り向き、「バカってなんじゃっ!」と返す。お互い笑いながら手を軽くふり、良平はそのまま歩き始めた。
良平は気付いてくれた。あたしの、ほんの些細な変化を。
きっと毎日、帰りに紗耶香ちゃんと話してたからで。無理矢理気付かせたも同然だ。
胸が苦しい。
気付いてくれて嬉しいのに、泣きたい程嬉しいのに、なのに、違う意味で泣きそうだ。
声には出さず、口だけ動かす。良平の背中に向かって。
『…す、き。』
良平を見つめれば見つめる程、現実に気付かされる。
好きになればなる程、切なさだけが増していく。
良平があたしなんて見てないこと、苦しい程にわかるから。
多分良平よりもあたしの方が、良平の気持ちをわかってる。
苦しい程に、わかってる。



