相変わらずの憎まれ口を叩きながら、あたしは団地の方に入って行った。「ナツ!」、良平の声がその足を止める。
驚いて振り向くと、良平が土手の上から叫んだ。
「ようやく衣替えしたな。」
突然の良平の言葉。驚いて何も返せない。
「ナツは長袖より半袖のが似合っちょる」
それだけ言うと、いつもの様にニヤッと笑って歩き出した。団地の入り口から、土手の上を歩く良平の背中を見つめる。
『ようやく衣替えしたな』
…そうだった。あたしは昨日までずっと長袖の制服を着ていて、今日ようやく半袖にしたのだ。
ただでさえ部活で日に焼けるのにそれ以外でも焼けたくなくて、あたしはできるだけ長袖でいた。
半袖が当たり前の季節、誰もあたしが今日衣替えしたなんて気付かなかった。
気付かなかったのに。



