(うそ、うそ、うそ、うそ、うそーーっ!)

 黒に銀糸を縫い込んだだけの、質素な仮面《マスク》。その下から現れた素顔を見て、レリアは心の中で絶叫した。

(うそ、うそ、うそよ! こんなはずじゃなかったのに!)

 混乱するレリアに、目の前の青年がほほえみかける。太陽のようにまぶしい金髪に、夜空の星のように輝く瞳。百人の娘が百人、こんな人と恋をしたいと夢見るような、整った容姿を持った青年。

 だというのに、レリアの足は彼を避けるように後ずさりした。

 未だ仮面をつけたままの招待客たちは、ただならぬ様子の二人を囲むように、息を詰めている。

「どうされました、レリア姫?」

 青年がにこやかに一歩踏み出す。彼女はすかさずもう一歩下がって彼をかわした。娘の非礼に慌てるように、グランツ王が玉座から立ち上がり、何事か言いかける。しかし、それを遮って青年はうそぶくように言った。

「姫、何かご不満なことでも?」

「え、ええ、不満よ。不満に決まってるでしょう!」

 レリアは覚悟を決めて顔を上げると、青年に人差し指を突きつけた。

「だって、恋の相手は王子様《あなた》じゃ困るんだから!」