「大丈夫?無理しないでいいからね」

「う…うん」


舌の右側が痛い。
ちょっと歯が当たっただけなのにヒリヒリとしている。


真由香は外回りに行くね…と言い席を離れた。
「行ってらっしゃい」と手を振り、そっ…と口の中を調べる。



(あー、やっぱり血マメが出来てる)


ウソをつくといつもこうなる。
お陰でどうにも熱いものがニガテ。



(やれやれ…)


パソコン画面に向かう。
伝票整理をして資料作成をしていたらオフィスの電話が鳴った。



「はい、旭コーポレーション販促課の白鳥と申します」


外部からの電話は大抵が取引先の店舗から。
丁寧に出ておかないと後の心象が悪い。



「白鳥くんか」


ドキンとしてしまった。
この声、もしかして課長!?


「は、はい。そうです」


お疲れ様です…という声が上ずる。

マズい。
課長と電話で話すのって、もしかしたら初めてかもしれない。


「今、取引先の店舗に到着した、今日はここと別に3店舗回るから」

「そうですか」


だから何?
単なる報告?



「ピーチはその後どうだ?」


やっぱり。
気になって電話してきたんだ。


「だ、大丈夫です」


餌もちゃんと食べていたし、お水もきちんと取り替えた。
クスリもスポイトで与えて、出かける前は安心したようにハンカチの中でじっとしていた。


あれこれと詳しく教えてやりたい。
でも、これはオフィスの電話だし……