「よし、綺麗になりましたね」

 磨き上げたものたちに満足して額を擦り、べったり汚れをつけながら微笑んだセレナは、次は床掃除を……と振り返り、そこでお約束のように足をベッドの端に引っ掛け、「あうっ!」とくるくる回りながら床に倒れ込んだ。

 その際、伸ばした手がコートスタンドを吹っ飛ばし、なんと年代物の蓄音機に倒れていった!

「ああああああ! しっ、シルフさん、シルフさん、大至急なんとかしてえええええ!」

 呪文でもなんでもない言葉を叫びながら魔力を解放すると、部屋中に暴風が吹き荒れた。

 その風によってスタンドは蓄音機激突を免れた。しかし、ベッドの布団や机の上の参考書、帽子やコート、本棚の中身などがブンブン飛び回り、床の上に散乱してしまった。

「あ、ああああ……そ、そんな、シルフさん、酷いです……」

《えー、私のせいじゃないですよぉ。魔力量を加減して具体的に指示してもらわなきゃ、どう力を顕したらいいのか分からないんだからぁ》

 ちゃんと言われた仕事はしましたよ、と、頭に葉っぱの冠を被った小さな少女はパッと消えてしまう。

「ううう……」

 セレナ、涙目で散乱した物を片付ける。それだけで大分時間を取られてしまった。やっと終わる頃にはもう日が傾きかけていた。

「大変、急いでクローゼットも整理しないと」

 ガラッとクローゼットを開け、中の洋服や荷物を運び出すセレナ。

 いくら兄妹とはいえ、クローゼットを開けるのはプライバシーの侵害ではなかろうか……なんて考えは彼女にはない。お兄ちゃんだって男の子なんだから、ちょっとアレな本とか出てきちゃうかもしれないよ? なんてことも考えない。あるのは兄の部屋を綺麗にするという使命感のみ。