廊下を走らない。

 琴月流次期指南役で変態(誤解)の風紀委員、音無刹那たちと約束をしたので、花龍はシオンから逃げるわけにはいかなくなった。

 いずれ怖くなくなる、と母には言われたが、まだまだ傍に近づかれるのは怖い花龍は、休み時間に近寄ってこようとしたシオンに待ったをかけた。

「お話があります」

 いつもとは違う真剣な表情、そして口調でそう言う花龍に、シオンも真剣な顔つきになり、床に正座した。それを見て、花龍も少し距離を取ったところに正座して向かい合った。クラスメイトたちは何事かと遠巻きに見守る。

「廊下を走ってはいけないので、もう追いかけてこないでください」

 背筋を伸ばし、真っ直ぐにシオンを見つめてそう言うと。

 シオンは「んー」と少し考えて、同じように背筋を伸ばして言った。

「いいえ。花龍が逃げなければいいと思います」

「……そうすると、シオンは私にぎゅーって抱きついてくるのではないでしょうか」

「そうしたいです」

「嫌です」

「なぜですか。俺のことが嫌いですか」

「嫌いではありません。でも嫌です。なぜならば、私は父上のものだからです。シオンのものではないので、ぎゅーはやめてください」

「……じゃあ、ちゅー……」

「ちゅーもだめです」

「えええー」

「私はシオンのハレンチなところは好きじゃありません。もし無理にでも追いかけてくるのであれば、嫌いになるかもしれません」

「ええー、それは嫌だ!」

「では、私のいうことを守ってください」

「……分かりました」