その日、花龍は龍虎軒ではなく、近くにある自分の家に帰宅した。今日は久々に母が休みで家にいるのだ。

「ただいまぁ」

 玄関を開けるとすぐに奥から母がやってきて、優しい笑みを向けてくれた。

「お帰りなさい、花龍」

 その母の笑顔と言葉が嬉しくて、花龍は満面の笑みで母に飛びつき、あのね、あのね、と学校での出来事を報告する。

 今日は音無刹那に助けてもらったことと、彼がヘンタイで琴月琥珀を狙っているという報告だ。

「でも、刹那おにーさまは悪い人じゃないから、大丈夫だよね」

 花龍はほわんとした笑みを浮かべる。助けてくれたことに敬意を表し、いつの間にか『おにーさま』呼びになっている。

 リィは刹那の両親の顔を思い浮かべ、うーん、と首を傾げた。ほわほわとしている音無久遠と、気が強くツンデレの見本のような琴月琴子。二人とも一本筋の通った人たちだ。彼らの息子がヘンタイとは、あまり想像がつかない。

 しかし人間、誰しも過ちを犯すものであり、また彼の周りにはそれを諌めてくれる友もいるだろうから心配はないだろうと結論付けた。



「そういえば、鬼龍ちゃんから、花龍とシオンが廊下を走るのが問題になってるって聞いたよ……?」

「……ごめんなさい。みんなに迷惑かけちゃったから、もう走ったり早歩きしたりしないようにします」

「それがいいね……」

 リィは花龍の頭を撫でるとダイニングに移動してきて、花龍のおやつを用意した。今日のおやつはマシュマロココア。クリームといちごジャムで出来たうさぎの耳のあるマシュマロを、温めたココアに浮かべて飲むのだ。