「俺の酒が飲めねぇってのか!」

 まったく飲んでいないのに酔っ払い親父のようなセリフを吐くシン。それに対して困惑しているのはキラキラしい輝きを放つ皇子様だ。

「いいえ! そのようなことは決してなく! ただ、私はアルコールは嗜む程度でして……」

「安心しろ、俺もだ!」

「そ、それではこちらの果実ジュースなどを……」

「いいから飲め! 俺の息子になるからには飲めるはずだ!」

「っ、は、はいっ」

 と、ドボドボと高級葡萄酒がグラスに注がれ、滝のように溢れている。

 シンは、娘の晴れ姿が嬉しい。嬉しいけれども婿が憎い。かわいいかわいい娘を奪いやがる婿が憎い。それでも祝福してやりたい。でも憎い。そんな無限ループに嵌っている。

「早く旦那を助けてやれよ……潰されるぞ、あれ……」

 妻である野菊も、妹であるリィも、シンの暴挙を遠目に眺めて微笑んでいるだけだ。助けられるのはお前だけだとシャンリーに救出を促す。

 シャンリーは振り返り、自分の父と将来の夫の姿を捉えると、「ああ」と笑った。

「大丈夫だよ、リュシアン様にはリザ公王の王配として逞しくなってもらわないといけないもん。父上に鍛えて貰えばいいんだよ」

「皇子様がシンくんについていけんの」

「頑張ってもらうよ~。そして弱ったところを慰めてガッチリハートを掴むの」

「鬼か、お前」

 もしや去年泣かされた恨みを今晴らしているわけではあるまいな、と半目で睨む。

 確かに夏休み以降、大分長い間シャンリーは元気がなかった。麗龍をはじめ、友人たちが彼女を笑わせようと天神お笑いグランプリなるものが開かれたのもいい思い出だ。