中学三年に進級してすぐ。

 麗龍はミルトゥワのリザ=ユグドラシェル家の城に招待された。シャンリーの婚約式の、身内だけの祝いの席が設けられたのだ。

 日頃肌色の多い衣装しか着ていなかったシャンリーだが、この日ばかりは首や背中、手首まで覆い隠すような袖の長い、マーメイドラインの薄桃のドレスを着ていた。

「だって、リュシアン様が他人に肌を見せるなって怒るからぁ~」

 華やかに飾られた庭園で、クネクネとしながらそう言うシャンリーは嬉しそうだ。

 去年の夏休み以降、シャンリーはリュシアンと距離を置いた。置かざるを得なかった。だが、それが良かったらしい。

「リュシアン様ったら、いなくなった途端に私の存在の大きさに気付いたとかでぇ~。まあ、小さい頃から結婚しようねって言ってたから、いつまで経っても子どもにしか見えなかったらしいんだけどぉ。それがなくなったら寂しくなっちゃたんだってぇ。ねえ、本当にどうしようもない人だよねぇ。私がしっかりついててあげないとねぇ?」

 恋を成就させた乙女の惚気といったら、休み明けの教頭の話並みに長い。

「私も婚約してみて、紫陽花ちゃんが真太郎くんと結ばれたときのの気持ちがよ~く分かったよ。大好きなダーリンの言葉には逆らえないよねぇ。貴方色に染まりたいよねぇ。うふふふ~」

「あぁそうかよ」

 はいはい、良かったな、と返事がおざなりなるのも、一晩中喜びの声を聞かせられ続ければ仕方のないことだろう。正装するのに時間がかかるからと、両親と一緒に昨晩から泊まっていたのだが、止めておけばよかったと溜息を零す。

 そろそろ惚気は終わりにしてくれないだろうか。

 麗龍の精神的疲労も激しいが、先程からシャンリーからは見えないところで、舅と婿のバトルが繰り広げられているぞ。