「よぉし、任せて花龍ちゃん!」

「ありがとうございますー」

 花龍はセレナの背中に隠れる。セレナは両手を掲げると、短く呪文を詠唱した。

「シルフさん、シルフさん、大至急天神学園までお越しくださーい。その暴風でもって、シオンくんを初等部校舎まで優しく送り届けてくださーい」

《りょうかーい》

 頭に葉っぱの冠を被った小さな少女がパッと現れ、くるりん、と身を翻した。途端に暴風が吹き荒れて、

「きゃああああああー!」

 辺り一面に悲鳴を響かせた。

 吹き荒れた優しい風により、廊下にいた他の女子生徒たちのスカートがイヤーンなことになった。現場に居合わせた男子生徒たちが鼻血流血で大惨事。その合間を縫ってシオンが駆けてくる。

「ご、ごめんね花龍ちゃん、私みんなの手当てしないと! お役に立てずに申し訳ないわっ……」

 セレナが慌てふためきながら振り向くと、そこに花龍の姿はもうなかった。

「だいじょうぶですぅー。想定内ですから、気にしないでくださーい」

 遠くの方を走りながら、花龍はそう言った。シオンとの距離が取れれば御の字。花龍はセレナに礼を言いながら逃げ続ける。



 周りに迷惑をかけながらの鬼ごっこは更に続き、そろそろ花龍も体力の限界。

(……よし)

 先程セレナのおかげで距離を稼げた。その間にこっそりと廊下に目には見えない魔法陣を敷いておいた。あとは魔力を流せば発動する。

 チラリと振り返れば、もう大分距離を詰められていた。さすが小学生にして現役冒険者。体力が段違いだ。それでも負けていられない。

 仕掛けた魔法陣の向こう側で振り返り、シオンを迎え撃つ。