最近、天神学園初等部では名物となりつつある光景がある。


「ふぁーろおおおおーん」

 元気よく跳ねている杏色の髪に深海色の目をした小さな少年が、廊下を歩く児童たちを掻き分けて猪のごとく走っている。

「ふぇええええーん」

 その前方には、翡翠色の目に涙を浮かべ、ふわふわ胡桃色の髪を靡かせて逃げていく少女。

「待ってよおおおおおー」

「いやあああー」

「もうチューしないからああああー」

「……ほ、ほんとー?」

「うん、ほっぺにしかしないー!」

「いやあああー」

 そんな会話をしつつ、鬼ごっこは続く。

 走り続けているうちに中等部校舎に迷い込み、黒髪を元結で結んだお兄さんにちょっと怖い顔をされたりしながら、更に突き進んで高等部へ。

 高等部には知り合いがいた。

 花龍の母、リィファが昔師事していた橘拓斗の子どもたち。ノエルかセレナのどちらでもいい、どこかにいないか探しながら走っていると。

 ゆるふわの髪をふたつにまとめた、おっとりした感じの少女を発見。

「セレナさぁーん」

「あ、花龍ちゃん? 高等部までどうした、の……」

 振り返ったセレナは、ちょっと泣きそうになりながら走ってくる花龍と、その後ろを必死の形相で追いかけてくるシオンを見て事情を把握した。