そうして、早朝は老師龍娘から中国拳法を、放課後はリディル師匠から精霊召喚術を教えてもらう日々が続いた。

 忙しい日々を過ごしていれば、時が過ぎるのはあっという間。

 夏が過ぎて、秋が過ぎて、冬が来て。

 試験的にだがルナと面会も出来るようになり──ただし、最初人見知りされて心臓に深刻なダメージを受けた──、麗龍の生活は順風満帆だった。

 ただ、ひとつ。

 ポケットの中に入ったプレゼント用のハンカチが、ずっと、渡せないままでいることを除いて。




「まったくもう、なんで連絡先くらい聞いておかないの? しかもフルネームも知らないってどういうことなの?」

 春休み。

 中学入学準備のために地球へ来ていたシャンリーとともに道を歩いていたとき、うっかりハンカチの行方を漏らしてしまった。そして説教突入となった。

「そのハンカチ買ったのいつよ? 去年だよ、去年!」

「しょうがねぇだろ、会えねぇんだから」

「探しなさいよ。頻繁に天神に来てるんだから、その辺の人に聞き込みすれば知ってる人もいるかもしれないよ?」

「別に、そこまでしなくていい」

「だって好きなんでしょ?」

「偶然会っただけだ。ただ、それだけのヤツなんだよ。勘違いすんな」

 そうだ。一年に一度会うだけの、ただの顔見知りなのだ。

 ただ、ちょっと『会えたらいいな』と思っているだけの。ただの、知り合い。それ以上でも、それ以下でもない。