花音と同じくのほほんとしている花は、夜中に部屋に忍び込んでもまったく気づかず、翌日には頬を染めて「プレゼントきたよぉ!」と報告してくれるのだが、さすが夕城家次期宗主の指南役を仰せつかっている者たちは違う。

 いつだったか、武の部屋に忍び込んだときに見つかってしまったことがあった。

 畳の上を足音も立てずに歩いていったはずが、その気配に気づいた息子が布団から飛び起きて瞬時に刀を抜いたのだ。

「何奴!」

 暗闇の中で光る切っ先に、お母さん、ひいいっ、と内心叫びました。その一方で、さすが武くんだよ、よく気配に気づいたね、泥棒がきても安心だねっ、と親ばかなことも思ってみる。

 しかしこのままでは息子に成敗されてしまう。それを回避したとして、毎年楽しみにしていた赤い妖精(サンタ)が母だったなど気づいたら、ガッカリさせてしまうかもしれない。そんな思いは親としてさせたくない。はて、どう言い訳したものか、と頭を巡らせていると。

「ぬっ……も、もしや、貴殿は『赤い妖精』殿か……!」

 刀を構えながらも、武が驚きの声を上げた。

 これはチャンスとばかりに、花音は口を開いた。

「そうだよぉ。私は天神地区担当の赤い妖精だよぉ。一年間良い子にしていた武くんに、プレゼントを持ってきたんだよぉ。受け取ってくれるかなぁ?」

 五所川原腹話術歴数十年のキャリアを生かした、見事な声変えであった。

「なんとっ」

 武はしばらく放心状態になったのか、動きが止まっていた。

 そして。

「はっ! 俺はなんという無礼を! 平にご容赦願いたい!」

 チン、と刀を納刀し、正座をして頭を下げた。