「大丈夫。これでも一応、人は選んでる──」

 ルナの言葉は途中で途切れた。

 表情を険しくしたティーダに突き飛ばされたからだ。次いで、銃声音。空気を切り裂く鋭い音が、朱い鳥居が浮かび上がる空間に亀裂を入れた。

 ティーダは飛び退りながら腰の後ろに手をやり、そこにあるはずのものがないことに舌打ちした。ユースティティアは部屋に置いてきていた。

 ならば拳で、と顔を上げて、反撃の意思を失くした。代わりに強い警戒心がせり上がってくる。ひいい、と情けない声が口から出そうになった。

 月をバックに空に浮かぶ黒い影。

 誰だ、などと問うまでもない。

 この重苦しい殺気。

 飛んできたカスール弾。

 黒いインバネスコートをヒラリと靡かせた真祖の吸血鬼、ヴラド=ツェペリ。

「こんな人気のない場所でルナに襲い掛かろうとは、いい度胸だなティーダ=グリフィノー」

 地を這うような恐ろしい声音だ。

「ち、違います! 別に襲っていたわけじゃありません!」

 良く見たら、いつの間にかルナはヴラドの腕の中に収まっていた。まったく気づかなかったと唖然とした。

「うん、別に襲われてないよ」

 ルナはヴラドを見上げながら言う。

 ティーダはほっとした。だが。

「ただ、おやすみのキスが欲しいって言われて」

「言ってねーよ!!」

「ふん、さすが破廉恥勇者、シオン=グリフィノーの息子だ。今ここで闇に葬ってやろう」

 対科物戦闘用13ミリ自動拳銃、白銀のマンイーターが火を噴いた。

 天神学園最強と言われる学園長を、更にはクラスメイトの父親と事を構えるつもりはない。

 ティーダは冷や汗をかきながら早川家に逃げ帰った。











 家族を大事にするヴラド先生にきゅんとします(笑)

「Kommt Zeit, kommt Rat」は時が来れば分かるよ、というドイツの諺です。