一瞬だけ月に見惚れたティーダだが、すぐに頭を振った。

「やめとく」

「あら、どうして?」

「女の子叩きのめしてまで欲しい情報じゃないし。どうしても聞きたいときは麗龍兄ちゃんに直接聞くから。だから、いい」

「なんだ、つまんないの」

 ルナの瞳から金色が消え、静かな翡翠色が戻ってくる。

「でも、もし答えてくれなかったら?」

「んー……そん時は、もう一回聞く。それでも駄目なら、また考える」

「心配だから?」

「心配だから」

 頷くと、ルナはにっこり微笑んだ。鳥居からふわりと跳んで、ティーダの目の前に軽やかに着地する。

 急に目の前にやってきた少女に戸惑うティーダの顔を下から覗き込み、ルナは言った。

「Kommt Zeit, kommt Rat」

「……え? 何?」

「すず先生のドイツ語のテスト。これ、出るって言ってたよ? 今のが解らなかったのなら問題だなぁ」

「えっ、マジで!」

「ふふ、うん、マジで。……だから」

 ルナはそっと、ティーダの頭に手を伸ばした。

「もうお帰りなさい。夜は、“太陽”は眠る時間だよ」

 ティーダはその言葉の意味を考えて、顔を顰めた。子ども扱いだ。馬鹿にされたような気がして、ルナの手を振り払ってそっぽを向いた。

 そんな彼を見て、ルナは機嫌よく笑う。

「なんだ、頭を撫でるだけじゃ満足出来ないの? おやすみのキスが必要?」

 するりとティーダの首に手を回すルナ。風呂上りなのか、長くてふわりとした髪からは甘い香りがした。顔の輪郭がぼやけて見える至近距離に、ティーダは顔を赤くする。

「ちょっ、こら! お前すぐそういうことすんな! 龍一郎にもしてただろっ!」

「悪い?」

「悪いっ! こういうことばっかしてるといつか痛い目に逢うぞ! だからやめろよ!」

 ルナはきょとり、と目を丸くした。

 あくまで他人を心配するのかと、少し嬉しい気持ちになった。