「ボクは橘奏楽。お兄様と呼んでくれたまえ」

 くい、と顎を持ち上げられると、少年──奏楽──が微笑んだ。後ろに真っ赤な薔薇が咲き乱れた。

「よ、よろしく……?」

 先程から見える宝塚のような幻影に、ティーダは押されっぱなしだ。

 しかし、この疑問だけは聞いておかなければならないな、と思ったので、勇気を出して言ってみた。

「ええと……でも、『お兄様』じゃなくて、『お姉様』じゃないのか?」

 訪ねたら、奏楽は切れ長の瞳を少しだけ見開いて、それからくっ、と笑った。

「なんだ、もうバレたの? もう少し騙されてくれるかと思ったのに。意外と観察眼はあるんだね」

 笑いながらティーダの顎から手を引く。

「でも『お兄様』でも別に構わないよ。ボクは男として生まれてきたかったんだ」

「なんで?」

「なんでって……」

 奏楽は大袈裟に両手を広げて、くるりと回った。

「可愛い子を愛でていたいからさ!」

 ジャーン。

 またどこからか効果音が聞こえてきた。

「……可愛い子、を?」

 ティーダの頭の上にはクエステョンマークが浮かぶ。

「女の子たちの甘い笑い声、柔らかな肌、癒しの香り、子犬のような円らな瞳……そういう愛らしい物がボクは大好きなんだよ。でもね、女が女を愛でるのはなんだか違うような気がしてね。やはり、愛らしいものを愛でるのは美しい紳士でなくてはならないと思ったんだ」

「そ、そうかな」