「ふうー」

 夜遅く。

 ノエルは汗を拭き拭き、道場の雑巾がけをする。これが幼い頃からの彼の日課だ。そこに妹のセレナがやってくる。

「兄さん、お疲れ様。お風呂の用意が出来ましたから、先に入ってください」

 道場に入ってきたセレナは、足元にバケツがあるのに気づかず、お約束のように引っかける。

「あうっ」

 セレナは前のめりに倒れる。しかしなんとか踏ん張ろうとした結果、今度は零した水に足を取られてくるりと一回転。

「あああー」

 両手を挙げてくるくる回る妹を、ノエルは素早くキャッチ。

「あ、ありがとうございます、兄さん」

「前から言ってるけど、セレナ、足元はよく見て歩こうね」

「はい、すみません」

「でも足元ばかり見ていて、壁に激突とかしないようにね」

「はい、兄さん」

 セレナはコクコク頷く。

 それが返事だけになるのは承知しているが、ノエルは妹がドジを踏むたびに優しく言い聞かす。