「つまり」

 シオンがかくっと膝から力を抜く。

「こうすると、倒れないように体の各部位が勝手に反応して、物凄い力が出る。考えるより早く動ける、てわけ」

 シオンの体が沈み込んだ瞬間、ひゅっと音を立ててリプニーの目の前に拳が飛んできた。あまりにも速すぎて、何の反応も出来なかった。

「これ、リィちゃんの方が上手いから、今度良く見てるといいよ」

「エージェントリィが……」

「イメージとしては自分を一本の杭に見立てて、膝から力を抜くときに杭を地面に突き刺す感じにするのです。自分が地面に沈んだと感じれば成功です」

 マリオンが補足説明をする。

「本来、突きという動作は、足、腰、肩、肘、拳と順番に拳を回転させる加速度運動をします。それだけの過程を踏みますから、すべてに力を伝達させるまでには時間がかかるのです。そして何度も繰り返せば、相当な体力を消耗します」

「はい……」

「ですが沈身を極めると、一挙動で動くことが出来ます。五か所に力を伝搬させていたものを一回でやれるのです。単純に考えますと、スピードを五分の一に出来るということですね。もちろん、無駄な力の入れ方も動きもしませんので、体力は使わないし、力もあまり必要ないのです。筋力のない女性にはうってつけの歩法です」

 リプニーは先輩のリィの動きを思い出してみた。

 確かに、速い。男性にも劣らない強いパンチや蹴りを繰り出していた。あれはこの歩法から来ていたのか……。

「リプニー様には、最後にこの歩法をお教えします。本当は『浮身』とセットの歩法なのですが、今回はこれに絞って覚えていただきますね。沈身からの突き、そして薙ぎ。携行砲があってもなくても使えますし、もちろん他の動作にも。これだけでも相当な武器になりますよ」

「はい……はい! 頑張ります!」

 立派なエージェントに、そして、立派な教師になって生徒たちを護るのだ。

 リプニーは決意を新たにした。