薄桃色の桜の花弁が舞い落ちる。

 穏やかな風を受けてくるり、くるりと翻りながら落ちた先は、恩師たちが眠る場所だった。

 あたたかな春の日差しを受け、桜の舞い落ちる風景の中、静かに、ただ静かに、恩師は眠る。

「遅くなってすみません」

 フェイレイは深海色の瞳を細め、丁寧に磨かれている墓石を眺めた。その横からすっと前に出たリディルが、大きな白い花束を墓前に捧げる。彼らの故郷の国花であるラセリアという花だ。百合の花に似た真っ白な花弁は、凛とした貴婦人を連想させる。

 その凛とした姿に隻眼の侍を、たおやかさに美しい女神を重ね、膝を折り、両手を組んで祈りを捧げる。

 長い間そうしていた二人は、そっと顔を上げた。

 舞い散る桜の花びらの中で思い出すのは、秋の紅葉。

 夜闇の中、鮮やかに色付いた葉を散らす武家屋敷。

『この世に生まれてきてくれてありがとう』

 紅葉の精霊とともに彼らの子どもたちに祝いの言葉を贈ったのが、つい昨日のことのように思い出される。

 その子どもたちを、子孫の行く末を、もうその目で見ることは叶わなくなった二人。

 でも。

「先生、俺たちの世界では、“星に還る”っていうんだ」

 フェイレイは静かに語りかける。

 地球では“天に召される”というのだろう。けれどもミルトゥワでは“星に還る”のだ。