花音はにこにこしながら正座をしていた。

 夕城家の居間として使っている和室で、同じく正座をしている、きりっといい顔をした夫を見ていた。

 夫はじっと、テーブルに乗せたピンク色の箱を眺めている。

 その中の、愛らしい顔をしたウサギが描かれた、チョコの粒を眺めている。

 にこにこしている花音と、きりっといい顔をしたまま微動だにせずチョコを眺めている善。

 どれくらい時間が経っただろうか。

 善が膝の上に置いていた拳をぎゅっと握り締めた。彼の頬につ、と汗が滴り落ちる。

「花音」

「はい?」

「……俺に、五所川原殿を食うことは出来ん……!」

 無念! と首を項垂れる善に、花音はにこやかに言った。

「善くん、おいしく食べてくれないと泣いちゃうよー」

 夕城分家、毎年恒例の光景であった。

 そこまでは、毎年恒例の光景であった。

 今年はちょっと、違う光景が訪れたのである。



 夕方になり帰宅した武が、父同様、きりっといい顔をして「ただいま帰りました」と母に挨拶をした。その鞄をチラリと覗き見た花音が、悲鳴を上げた。

「チョコ! 武くん、今年はなんか本命の匂いがするチョコが入ってるよ!」

 本命の匂いってなんだ。

 相変わらず不思議なことを言う花音。