「父上ー、父上ー」

 リビングのソファで新聞を読みながら寛いでいる霸龍闘のもとに、花龍がとてとてとやってくる。

「おー、なんだぁ?」

「父上ー、あのね、あのね」

 新聞から顔を出した父に、体を左右に揺らしてもじもじしする花龍。

「うん?」

「父上に、チョコレートっ。本命だよっ」

 ほわん、と微笑みながら、ピンクの袋でラッピングされたチョコレートを手渡す娘に、霸龍闘は顔を綻ばせる。

「おお、花龍が作ったチョコかぁ、嬉しいなぁ! ありがとう!」

 新聞をばさりと横に置いて、大袈裟な身振り手振りで喜びを表現してみせる霸龍闘。

 でも本当はチョコを渡されるんだって分かってたけどね。だって昨日一緒に作ったからね。中身がくまさんとかうさぎさんの絵を描いたかわいいチョコとか、カラフルなマカロンとか、ガトーショコラとか、甘党親子のためにリィが色々と材料を揃えてくれたから、種類が盛りだくさんで毎日食べるのが楽しみー、な内容になっていることもちゃんと知っている。

 でも初めて知ったよ、お父さんびっくりー! なんて風に喜んであげないとね、かわいい娘のためだからね、と口元を緩ませるお父さん。

 おかげさまで娘は満足そうだ。

「えへへぇ」

「えへへー」

 にっこり微笑みあうと、花龍はとてとて逃げていった。小さな子どもとはいえ、本命にチョコを渡すのはちょっと恥ずかしいのだ。