また別の日。

「冬樹様はこのように寒い日にも美化委員の活動をされて……本当に頭が下がりますね」

 豆太郎は冬樹に見つからないよう、こっそりこっそり中庭のお掃除のお手伝い。

 竹箒で掃きながら冬樹の様子を伺っていると。

「あっ、冬樹様の白くて美しいお顔が汚れてしまっている! この濡れタオルをお届けしなければ!」

 竹箒を投げ捨て、濡れタオルを持って冬樹のもとへ駆けつけようとした豆太郎は、足を滑らせて転倒。偶然にも蓋の開いていた側溝に嵌ってしまう。

「ああああっ、大変だ! また嵌ってしまったあああー!」

 じたじた暴れていた豆太郎は、いつの間にか狸の姿に戻っていた。側溝から抜けられる大きさになったというのに、やはり気づかずにじたじた。

 その間に冬樹のところには花がやってきて、ハンカチを差し出してにっこりしていた。

 いい雰囲気の二人の知らないところで、豆太郎はじたじた。

「ぴゃあー、ぴゃあー」

 じたじた、じたじた。

 暴れる豆太郎は、ひょい、と持ち上げられた。

「ぴゃあー……あれっ?」

 顔を上げると、翡翠色の目をした女の子と目があった。胡桃色のふわふわとした髪が寒風に靡いている。

 女の子は豆太郎を地面に下ろした。それから彼の前足が少し腫れているのを見て、こてん、と首を傾げた後、呪文を唱えた。

「シルフ、穏やかなる癒しの風を巻きおこせ」

 女の子の足元に碧色の魔法陣が浮かび上がり、彼女を中心にふわふわと暖かな風が巻き上がった。それが豆太郎を包み込むと、前足の腫れはすうっと引いていく。

 不思議な力に目を輝かせていると、女の子はふわふわと微笑んだ。

「もう怪我しないでね」

「は、はいっ、ありがとうございますです小さな天使様!」

 狸の姿のままペコペコ頭を下げると、女の子は「花龍ー!」という元気な声に振り向いて、そちらにトテトテ走っていった。


 冬樹の方を見れば、花とほのぼのな雰囲気で語らっているようだ。

 楽しそうな主人に、豆太郎も満足。

 尻尾を振りながらまた掃除に勤しんだ。











 こっそり豆太郎。

 役には立ちませんが、ひっそりと冬樹と花を応援中。