冷え冷えとした風が吹き渡る中庭の片隅で、冬樹が花に上着を貸してあげている。

 その様子を葉陰から眺めていた短髪でちょっとタレ目の線の細い少年が、目を輝かせて何度も頷いていた。

「さすが冬樹様! この寒空の下で震える女子に優しく上着をかけてあげるとは、男の中の男! 紳士! きゃー素敵、ですね!」

 ぐっと握りこぶしを作った彼の名は、佐貫豆太郎(さぬき まめたろう)。

 佐伯の雪女を影から守る豆狸の一族、その七代目頭領である。

「最近冬樹様は夕城のお嬢様と仲がよろしいご様子。ようし、ここは僕が代わりにお掃除をして、冬樹様らぶらぶ大チャンスを作って差し上げましょう!」

 そう言って竹箒でお掃除を始める豆太郎だが、あまり要領が良くないらしく、なかなか掃除が進まない。集めた葉っぱがあっちへヒラヒラ、こっちへヒラヒラ。それを追いかけているうちに息が切れてくる。

「ふうふう……あっ、冬樹様は側溝の掃除もしていましたね」

 豆太郎は箒をしまうと、側溝のグレーチングを取り外し、頭を突っ込んでゴミを掻き出した。

 しかしあまりにも奥に顔を突っ込み過ぎて、バランスを崩して転倒。側溝に嵌る。

「あうっ、あうっ、大変だ、体が嵌って動けない!」

 ジタバタジタバタ焦っていた豆太郎は、いつの間にか人間から豆狸の姿に戻っていた。体が小さくなったことで側溝から抜けられる大きさになったのだが、それに気づかずにしばらくジタバタジタバタ。