終電を逃した私は、タクシーを捕まえようと駅のロータリーに出た。
雨は幾分か収まっていて、傘を差すほどでもなかった。
駅の階段を降りきったその先に、私は蹲る人陰を見つけた。


いつもなら気にも留めず、通り過ぎるのに、今日はどうしてか、その人陰に立ち止まってしまった。



「どうしましたか?どこか具合でも悪いんですか?」



そう言って声を掛ければ、その人陰はグルっと顔を上げ、私の方に視線を寄越した。
その端正な顔に、一瞬にして惹き込まれた。
息をするのを忘れる程、その顔に魅入ってしまった。



と、刹那、グイと後頭部を掴まれ、何が何だかわかならいままに、その端正な顔の男性の、その薄い弧を描く唇に私の唇が引き寄せられた。



え?



口付けされてると気付くまで数秒、私の時間(とき)は止まった。



触れてる唇が異様に熱い。
そこに熱が篭っているのかと思うほど熱い。
否、きっと、彼自身が熱を発しているのだろう。


そんなことを考えていたら、フッと離された唇。
と、離れた彼の唇が、ゆっくりと動いた。


「お姉さん・・・可愛い・・・ね・・・・・」