正門の前に、 黒いシャツに黒いパンツ、 それにおそらくベロア素材であろうボルドーのジャケットを羽織った、 30前後くらいの男が立っていた。 男は私の方を向くと、 「よお」 と誰かに声を掛けた。 その様子が私には少し怖く感じられて、 急いで男の脇を通って車に乗り込もうとした。 すると男は右腕だけをサッと動かして私の腕を掴むと、 「あんたに挨拶したんだけど」 と言って、こちらに顔を向けて右の口角をニッと上げた。