「コツコツ頑張ってお金貯めて、地元の顧客を増やしてさ。小さいけどなんとか自分のサロン開いて、やっと軌道に乗ってお客さんも少しずつ増えてきて…。あのサロンにはそれなりの思い入れがあるんだよね。」

「結婚しても今まで通りに今のサロンで仕事をすることはできないの?」

「彼の住んでる所が少し遠いから、毎日通うのは大変かな。」

「中間辺りに新居を構えるとか。」

「そうできればいいんだろうけど…。最初からその選択肢はなくて、一緒に店をやろうとしか言われなかった。彼の住んでる場所の近くに良さそうな物件を見つけたとか、そのためにはいくらくらいお金が必要とか具体的な話までされるし…。」

アユミの表情がまた険しくなった。

「ユキちゃんの意見は聞かずに?それでユキちゃんは何も言わなかったの?」

「どんどん話進められて、言う余裕もなかった。結婚するかどうかもまだ決めてないのに…。」

「ユキちゃん、それは早いとこハッキリしないと。サロン云々以前の問題だよ。このままじゃ本当に後戻りできなくなると思う。」

アユミは強い口調でキッパリと言い切った。

もしかして職業柄そんな物の言い方になるのかと思いながら、ユキはビールを飲む。

「うん…そうなんだけど…。」

歯切れの悪い返事をするユキを見て、アユミは少し笑った。

「ねぇ、ユキちゃん。もしかして…彼との結婚に踏み切れない理由だけじゃなくて、断れない理由もあったりする?」

思いもよらぬことをアユミに尋ねられて、ユキは少し考え込んだ。

「どうかな…。サロンは大事。彼のことは…結婚したいほど好きかどうか、よくわからない。」