夕方になり仕事を終えたアキラがサロンに足を運ぶと、帰り支度を終えたユキがカウンターの中でぼんやりと座っていた。

「おっ、もう出られんのか?」

「うん。ミナが早めに上がらせてくれた。」

「じゃあ、行くか。」

ユキは客にネイルを施しているミナに声を掛けた。

ミナはユキにお疲れ様と挨拶をしてから、アキラに目配せをした。

(あー、ユキを頼むってことか?)

アキラは軽くうなずいて、ユキと一緒にサロンを後にした。

サロンを出て、二人で並んで歩いた。

ユキは無言で肩を落として歩いている。

ユキが少しでも明るい気持ちになれたらと、アキラはわざと明るい表情でユキの背中を叩いた。

「ユキ、今日は気晴らしに飲みに行こう。」

「うーん…でも…いいの?」

「似合わねぇ遠慮なんかすんな、バカ。」

アキラが笑ってワシャワシャと頭を撫で回すと、ユキも乱れた髪を手櫛で整えながら笑った。

「やめてよ、髪グチャグチャになっちゃったじゃん。」

「おう、最高に似合ってんぞ。」

「嬉しくねぇわ、バカ!」

ユキがほんの少しいつもの元気を取り戻したことが、アキラにはとても嬉しかった。

「マナの店に寄る前に、行くとこがあんだ。ちょっと付き合え。」

「ん?別にいいけど…。」

ほんの1週間ほど会わなかっただけなのに、アキラはユキと二人で並んで歩くのは久しぶりのような気がした。

アキラにとって、遠慮なく軽口を叩き合える相手はユキだけだ。

ユキが自分のことを友達としか思っていないことはイヤと言うほどわかっているけれど、それでもユキとの関係は壊したくない。

友達でもいい。

ずっとすぐそばにいて、一緒に笑い合えたら、それだけでいい。

お互いに別のパートナーがいたとしても、ユキと笑って会えなくなるよりは、ずっとましなはずだとアキラは思った。