Another moonlight

「なぁ…ユキ…。」

アキラはユキに背を向けたまま呼び掛けた。

「ん?」

「……やっぱいい。」

「ふーん…。」

少しの間、二人とも黙ったまま歩いた。

伝えたい言葉は、伝えようと思うほど喉の奥に留まって声にならない。

(好きだ…って、たった一言なのに…。なんで素直に言えねぇんだろ…。)

アキラは口の中で、何度も何度もユキに伝えたいたった一言をくりかえす。

何も言い出せないまま、ユキのマンションのすぐそばまで来た時。

「アキ…。」

「ん…?」

「あの時言ったこと、覚えてる?」

「あの時…?」

「救急車待ってる時になんか言いかけて…生きてたら言うわ、って。」

アキラは曖昧な記憶の糸を手繰り寄せた。

けれど、思い出すのはユキの涙と膝枕だけ。

「……そんなこと言ったか?あん時のことな…よく覚えてねぇんだ。ユキが膝枕してくれたことと、泣いてたことだけは覚えてんだけどな…。」

「…そっか。覚えてないんだ。」

ユキは少しがっかりしたのか、小さく息をついた。

「オレ、何言った?」

「覚えてないならいいよ。」

そっぽを向いて少し拗ねたようなユキの肩を両手で掴んで、アキラはユキの顔を覗き込んだ。

「オレが気になんだろ。教えろ。」

アキラにまっすぐ見つめられて、ユキは少し照れ臭そうに目をそらした。

「アキ、このままもう死んでもいいって言ったんだよ。」

「ああ…そんなこと言ったっけ…。で、あん時なんでユキは泣いてたんだ?」

ユキはうつむいて、アキラの胸に額を押し付けた。