時刻は8時半を回った。

店内はたくさんの客でにぎわっている。

カウンター席では相変わらずアキラとマナブが肩を並べてビールを飲んでいた。

「だから…なんでよりによってユキなんだよ…。」

久しぶりに飲んだせいか、今日はいつもよりアキラの酔いが回るのが早いようだ。

さっきからアキラは、何度も同じことをくりかえし呟いている。

「それ何度目だよ。もう聞き飽きたって。」

マナブは火のついたタバコを手に笑っている。

アキラの隣の席に誰かが座った。

「何度聞いても納得できねぇんだよ、オレは!マナなら相手は他にいくらでもいるじゃん!」

アキラが思わず握り拳でテーブルを叩いた。

隣の席に座った誰かがじっと見ていることにも気付かないで、アキラはブツブツ文句を言っている。

「何がそんなに納得できないって?」

「だから、マナが…!」

声を掛けてきた人の方を振り返ったアキラが、目を大きく見開いて固まった。

「マナが…どうしたの?」

「……っ…!!」

(ユ…ユ…ユキ…!!)

突然目の前に現れたユキに驚いて、アキラは絶句している。

「いらっしゃいユキちゃん、お疲れ様。」

マナブは吹き出しそうになるのを堪えながらユキに声を掛けた。

アキラはまだ固まったままだ。

(マナのやつ…!ユキが来るなんて一言も言ってなかったじゃねぇか!!)

ユキはそんなアキラを不思議そうに見ている。