「友彦君…」
教室の戸に鍵をかけ、ひょこひょこ廊下を歩いて階段を一段一段たっぷり時間をかけて降りていると上のほうから澄んだ声が俺を呼んだ。
見上げれば、でっぷりとした赤黒いニキビ面のゴキブリがぼんやりこっちを見ながら立っている。
その顔はいつもの通りおどおどとしてイラつくが、何を思ったのかゴキブリはどしどしとその太い足をういごかして階段を俺の所まで降りてきた。
「鍵…職員室まで? 私がかわるよ」
おずおず伸ばされてる手。
ボロボロだ…。
それは、この前倉庫で見た時よりも豆だらけで皮がめくれ血が滲み範囲が広すぎてテーピングすらも痛々しく見える。
キモチワルイ。
「…自分で持ってく」
俺はゴキブリに言う。
「職員室まで遠いよ? 足痛いんでしょう?」
断る俺に、食い下がるゴキブリ…コイツこんなにしゃべる奴だっけ?
いや、もしかしたら俺がこんな目にあっているのは自分の所為だから気を使っているだけなのか?
俺は、こちらに差し出されたままのボロボロの手の平にそっと教室の鍵を乗せた。
