トモダチつくろう

 「…いいえ」

 
 アイツは言った。

 ソレと同時に、少しだけ教室がどよめく。

 「私は殿城さんと会っていません」

 はっきりと、言った。

 いつもの蚊の鳴くような声とはと違う、教壇までよく通る声で。

 コイツこんな声なんだ…初めて聴いたな…。

 普段のコイツを知らない教頭は、そんな事には気にも留めず『そうですか…君と殿城さんは友達だそうだね…何か気が付いたら教えてください』と、それだけ言って一限目は自習と黒板に書いて教室を出て行ってしまった。


 ざわざわ!
  ざわざわざわ!


 教頭のハゲ頭のシルエットが遠ざかると、教室は一気に騒めく。

 それこそ心配だとか、どこどこで殿城を見たとか、憶測や注目を集めたいやつらが好き勝手に話をする。

 「大丈夫かな、殿城さん…」

 これ見よがしにともこが言うと、周りの取り巻きが口々に同じことを繰り返す。

 うわぁ…つい最近まで殿城をいじめぬいてた奴らがよく言うよな…そのメンタルある意味尊敬するぜ…。

 俺はふと気になって、アイツを見た。

 …いつの通りニキビ面を隠すように下を向いている。