「あ、ともこちゃん濡れてるよ?」
ざーざーと降り注ぐ水滴の向こうで、昔と変わらない優しい笑顔がその手に人の腕をもってキュっとシャワーの蛇口を締める。
「な、なにそれ……?」
こんなに、血の匂いがむせ返っているのに。
こんなに、タイルの床が赤黒くて流れた水も黒いのに。
その手に持つものがどう見たって多分本物だと思うのに、アンタの顔があんまり優しいから。
叫ぶ事も逃げ出す事も忘れて、ただ聞いた。
冗談だよって。
自分を苛めたいじめっ子にを懲らしめるための悪ふざけだって、言ってほしくて。
こんなのアタシの悪い夢だって。
「ぁあ、これぇ? ゆうちゃんだよ、指の形が悪いけど美味しかったでしょ?」
無邪気な笑顔は、まるで大根でもほうるみたいにクーラーボックスに『ゆうちゃん』をぽいっと投げ込む。
「おいしかった?」
「うん! 今日のカレーのお肉はゆうちゃんだったの! この前は友彦くんだったんだけど、友彦くんはカレーより肉じゃがの方が美味かったなぁ」
は?
なに言ってるの?
お肉?
カレー?
友彦君が肉じゃが?
