それでも僕は手をとめて琳子の話を聞いていた。

 なにも変わらないここで、四年間静かにただ傍観してきた。

 だけど、何かが変わってほしかった。

 たとえばそれは、良い方に。

 願わくば誰も傷つかない方向に。

 だけど、そんなモノは勝手な願望で。

 酷く夢見がちなお伽噺のようなまやかしだと思い知るのは早かった。

 「…髪、随分伸びたでしょう?」

 冷たい声だった、予想している返答ではなかった。

 「…え?あ、うん」

 「私人生で多分一番髪が長いと思うわ。でも切らないの。この髪は願掛けの為に伸ばしてるから。なんだと思う?」

 向きかけのリンゴとナイフを棚に置き、少し開いた窓から外を眺めて麻奈は溜息を吐いた。

 「…この子の目が覚めますように」

 麻奈にしてはゆっくりした言い方だった。

 一語一語噛みしめているようにゆっくりと発せられた言葉は、琳子には正しく届いていない様で彼女が微かに口元を綻ばせる。

 「目が覚めれば私の知ってるあらゆる表現で罵ってあげられる。反応のない相手に話す程簡単な気持ちじゃないもの。本当なら今すぐにでもこの場を去りたい。愛しい彼の元に行きたい。でも、まだだめなのよ」

 麻奈の愛しい相手はこの世にいない。

 憎しみをぶつける為に生きていると麻奈は穏やかに言った。

 少女を静かに恨むことで、穏やかになれたと静かに言う。