四年前のあの日、悲しい出来事に麻奈の心に穴が開いた。

 僕はそれを知っていた。

 毎日静かにゆっくり、でも確実に麻奈の心に開いた穴から憎しみと言う毒が染み渡っていくのを、四年間見て見ないフリをしてきた。

 ハサミで髪を切るように、悲しみも憎しみも恨みも苦しみも切り取って捨ててしまえれば楽になれるのに。

 人間はそうも容易く生きられない生き物だから。

 大切なものは、失って初めて気づく。

 そんな誰かの残した言葉が、今は一番しっくりくる。

 失くしたモノの大きさなんて、失くす前から知っていて大事にしていた麻奈にとってその出来事と衝撃はあまりにも深く心に刺さり、何もかもを止めて自暴自棄になるには十分だった。

 それでも辛うじて今の麻奈でいられるのも、少女のおかげ。

 静かに壊れている彼女でも、この小さな存在が目覚めるまでは辛うじて人の形を保っていられる。

 裏切られることのない憎しみの対象がいれば、絶望しても生きていけるから。