「…お見舞い?」

 ベッドに横たわる少女は動かない。

 もう四年もずっと目覚めていない、今後目覚める当てもない。

 ベッド横の丸椅子に座りリンゴをむく麻奈(まな)は深く俯いたまま小さく答えた。

 あの頃から伸ばしっぱなしの、手入れされていない黒髪から覗く瞳が微かに揺れた気がした。

 「…リンゴ、きっとおいしいわ」

 毎日欠かさずお見舞いに来ている。

 四年間毎日、だ。

 目覚めない彼女はリンゴなんて食べれない。

 それでもむいているのだから優しい人だと他人は言うだろう。

 「…勿体ないから一緒に食べようか?」

 麻奈は手を止めて、長い黒髪の隙間から僕を睨んだ。

 「何言ってるのよ。放っておけば虫が集るでしょう?そうしたら動かないこの子の上にもとまって悪い虫はこの子の身体をきっと食べてくれるでしょう?それなのに私達が食べてしまったら私は何の為にリンゴをむいているかわからなくなるじゃない」

 扉の前に立ち尽くしていた琳子(りんこ)が小さく悲鳴を上げたのを聞きながらついに口に出すまでになってしまったのかと僕は幻滅した。