口の中がからからに渇いていたけど、勇気を振り絞って言った。

「先ほどは、お買い上げありがとうございました。何か?」

彼はレシートとおつりを両手に広げて見せた。

「さっきもらったおつり、ポケットから出したら100円多かったんで。」

「あ・・・ほんとだ。」

おつりは200円のはずだったのに、300円渡していた。

いつもこんな間違いしないのに。

「わざわざすみません!」

頭を下げて、多めに渡した100円を受け取ろうと手を差し出した。

すると、拓海はその手を避けて、美鈴のエプロンのポケットに100円を滑り落とした。

「じゃ。店長によろしく伝えて下さい。また来ます。」

そう言うと、表情を変えないまま自転車にまたがり、振り返りもせず遠ざかって行った。

嘘でしょ?

本当に私に触れるの嫌なんだ。

わざわざエプロンのポケットに入れるなんて。

でも、私のことが嫌いだなんて、初めて会ったのにあるわけない。

だって、自分は何も拓海に悪いことしてないもの。

そんなの絶対あり得ない!

だとしたら?

異常な潔癖人間なんだわ。

そう、そうに決まってる。

ポケットに入った100円玉を取り出して、ぎゅっと握った。

あー、やだやだ。

あんな潔癖男。

「また来ます」

だなんて、もう二度と来ないでほしいわ。

胸くそ悪いったら。

美鈴はいつもより強く地面を踏みしめながら、店内に入って行った。