ヒンヤリとした面タオルをキュッと頭に巻いた。

面を顔にかぶせる。

美鈴はこの瞬間が一番好きだ。

自分でいて、自分じゃなくなるような感覚。

小さい頃、ドラえもんのお面をつけて、ドラえもんになりきってた自分と重なる。

面をつけた時の自分ではない感覚が気持ちを大きくしてくれた。


「お願いしまぁす!」

気合いを入れて、準備体操をしている輪の中に入る。

警察署の体育館で月に3回開催されている剣道にいつも参加している。

女性はほとんどいない。

背の高い、警察官の田村奏汰が指導者だ。

28歳という若さのわりに剣道5段の腕前。

力強く振り下ろされた竹刀に当たれば、一瞬気が遠くなる。

到底美鈴にはかなわない相手だった。

「おう、今日も威勢がいいな。美鈴。」

「あったり前です!元気一筋でここまでやってきたんですから!」

奏汰は大きな声で笑う。

面から見える目は、その大きな立ち姿とは違ってとても優しくつぶらだった。

美鈴はそんな明るく豪快な奏汰が大好きで、兄のように慕っている。

奏汰もまた妹のように可愛がっていた。