いつもの調子で、話しながら水族館に着いた。

平日だけあって、人足はまばらだった。

水族館の中は薄暗くて、ヒンヤリとしていた。

冷たくて大きな水槽に魚たちが舞っている。

気持ちよさそうに無重力を楽しんでいるように見えた。

「魚たちは、ここが海じゃないってことわかってるのかな。」

拓海はポツリとつぶやいた。

「わかってるんじゃない?」

「わかってたとして、だけどこんなに屈託なく泳いでる。ある意味魚たちに感心する。」

「感心って、大げさね。」

「置かれた状況で納得して楽しめるって人間でもなかなかできないでしょ。」

「まぁそうだけど。」

「自分達はできないくせに、魚にはこんな試練を与えてる。」

拓海は水槽に顔を近づけた。

「人間って本当に愚かだと思うよ。」

水槽を触ってみた。

とても冷たい。

手で触れていると、水槽の向こうと繋がっているような錯覚に陥る。

「あたなは人間が嫌いなのね。」

「どちらかと言えばね。」

「どうして?」

「人間は裏切る。傷つける。それは自分自身もだけど。」

「だからこそ得られる愛もあると思うわ。人って、思っている以上に複雑なのよ。」

「裏切りのどこが愛なの?」

「どうして裏切ったかっていう先には人の気持ちがある。見えないだけよ。全てがそうとは言わないけど、見えてるものだけが真実じゃないってことよ。」

「見えないものは虚構だよ。」

小難しい話に疲れた美鈴は、少しだけ拓海と距離を空けて違う水槽へ向かった。

そこにはカマイルカの水槽があって、狭いながらもぶつからずにものすごい速さで上下を行き来するイルカたちがいた。

美鈴は、このカマイルカたちが愛を感じてるかと聞かれたら、よくわからないと思った。

だけど、何か愛を感じれるものが、このイルカたちにあって欲しいと祈った。