昼休みは衣織の周りに人だかりができていた。

「これは?どこで買ったの?」


「これは、意外と安くて。最近できた雑貨屋さんわかる?」


本物のファッションリーダーになったみたい。

衣織、めっちゃかっこいいじゃん。


廊下に出ると、凛子がぽつんと立っていた。


「何してるの?」

声をかけずにはいられなかった。

凛子は紙パックのジュースを手にしたままこっちを見た。


「いや・・・なんていうか。私、衣織のこと助けられなくて。自分の身を守ってしまったんだよね…私、自分でも嫌な奴だなって」

凛子はうつむいて壁にもたれた。

いつも、大きな声で喋る口からは、小さな声がこぼれている。

大きな口で、いつも大笑いしてる凛子のこんな曇った顔。

眉毛は下がって、口も閉じちゃって…

緊張からか、唇が乾いてる。


凛子の隣に立って、同じように壁にもたれた。


「みんな…自分のことが大事だよ」

廊下の床を見ながら言うと、

「衣織のこと助けたじゃん。乃々夏、衣織に結構嫌な態度とられてたのに」

力ない顔の凛子はいつも以上に重そうなまぶたでこっちを見た。


「私も最近までは自分のことだけだったんだよ。だから、衣織や凛子と一緒にいたんだもん。私だって、十分やな奴だよ。自分の身だけを守ってたんだから」


私の言葉に凛子は、驚くこともなく静かに頷いている。

そういうの、やっぱり何となく伝わっちゃうものなのかな。


「でも、誰かのために動くと人と繋がるんだよね。心が繋がるというか。って、なんかくさいこと言ってるね、私」


照れて笑う私を見て、凛子が少し笑って首を横に軽く振った。



「繋がると、それが信じられる存在になって強くなれる。自分を守るだけの力より、自分と誰かを守る強さの方が強いじゃない?その存在が増えれば、また強くなっていけるって…今はそう思えるんだよね」


凛子は静かに耳を傾けていた。

体を壁から離して、凛子をまっすぐ見た。

「凛子、悩んで動けないのと何もしないのは心の中では違うけど。結局それじゃ相手には何も伝わらないと思うのよ。色々、考えるからこそ動けなくなるのはわかるけど」


考えてるからこそ軽はずみに動けないんだよね…

慎重になるからこそ、出遅れる。


「とりあえず、そのジュースが温くならないうちに衣織に持って行きなよ」

さっきから握りしめてる二つのジュース。
1つはたぶん衣織の分だよね。


ジュースを指さすと、


「うん…」

凛子はジュースを見て少し笑った。


「あんた、変わったね。乃々夏、いい顔してるじゃん。今の乃々夏、好きだよ」

そう言って凛子は衣織の方へ歩いて行った。


私も、強くならなきゃ。

意を決して加瀬君の所へ向かった。