衣織は震えながら青ざめた顔で涙をこらえていた。


いつも上から目線で、私のことをバカにしていた衣織。
男子に媚びてた衣織。

自意識過剰で自己中な衣織。


ほんとに嫌な奴・・・大嫌い。って本当は心の中で何度も思った。


その衣織が今、クラス中に冷ややかな目で見られている。

自分で蒔いた種だよね、本当。

これぞ自業自得。


散々人を傷つけてきたわけだから、今それが自分に返ってきてる…そういうことなのだろう。


窮地に追い込まれた衣織を擁護する声も聞こえない。

味方がいない…

衣織は今どんな気持ちだろう?

一番なりたくなかった、自分からは一番遠い立場だと思っていたところにいる気分は…?


衣織、今、ヒトリボッチ。


人の心の痛みを知ればいい…

どれだけ人を傷つけてきたか、知ればいい。


だけど…それでいいの?

心の中の、私が問いかけてくる。


人として、それでいいのか。

見て見ぬ振りをしてあの魔女達と同じところまで落ちるか。

私は、自分の人として大事な部分を失いたくない…

せっかく大切なことが見えてきたのに。


大きく息を吸い込んだ。


「え?カッコよくない?逆に」

私の声にみんなの視線が一斉にこっちを向いた。


みんなの視線に今更ながら緊張する。

それでも、スカートをギュッと握りしめて、

「そもそも、嘘つく必要ないじゃん。あれだけ買いそろえるの相当だよ?欲しいもの自力で手に入れてるんだから。これこそ真っ当だよね」


目の前の愛紗を見た。


「確かに、本当そうだよね」

愛紗が頷いた。


「ビッチじゃない衣織、私好きだけど。オシャレなことには変わりないし」

私の言葉にちらほら、

「まぁ。確かに、そうだよね」

「うん。ある意味すごい」

「貢がせてないとか逆に好感度あがるわ」

こんな声も聞こえてきた。


衣織の目から涙が零れ落ちた。

しばらく顔を覆っていたけれど、上を向いて深呼吸した。

「私・・・嘘ついてごめん。本当は他にも、犬の散歩のバイトとか、掃除のバイトとか、古本屋の店番のバイトもしてるの」


衣織のカミングアウトにみんなの驚く声が響いた。

「まじで?すごい」

「意外と根性あんな、衣織」


どんどん、クラスの空気が変わる。

青ざめた教室から一気に華やかな教室へと変わると、私の体温も上がって体がポカポカする。

自分が緊張していたことを、いまさらながら自覚した。


ゆっくり息を吐いて、ホッとした瞬間。

「乃々夏、ごめん。今まで、ほんとにごめん。ありがとう」

衣織が私に向かって頭を下げてきたので、私も立ち上がって頭を下げた。


「いや、いえいえ」

そんな私を見て、

「なんで乃々夏が頭下げんの」

衣織が笑った。


「やっぱ、乃々夏ちゃんおもしろいわ」


加瀬君の声。
笑った顔久しぶりだし。


「でしょ?」

笑いながら答えた。


陽色を見ると、こっちを向いていた。


久しぶりに目が合った。


どんな顔してるの?

声が聴きたいよ・・・