静まり返る教室内でただただ、嫌な空気だけが漂う。

「何?この空気」

「わからない」

愛紗と口パクで会話する。

何が起きているか状況が飲み込めない私達のような人は、キョトンとした顔でやりとりを見ていた。

異様な雰囲気が、衣織を少しずつ不安にさせていく。


「え?なに?どうしたの?」

衣織の顔がだんだん曇っていった。

私まで緊張して、なんだか胃が痛くなりそう。


「よくやるよね?プレゼントとか言ってさ、自分で買ってたんだから」

梨央子が大きな声を出した。

衣織を見下した、勝ち誇った顔だ。

花の穴が少し膨らんでいる。

梨央子はクラスの女子の中でも、権力があるグループの1人。

とにかくみんなスタイルが良く、化粧が濃く、派手。

梨央子は、背が高く色が白く、鼻が高い。その高い鼻がよりプライドの高さを感じさせる。

目は切れ長で、睨まれるとすごく怖い。

でも、やっぱり入学式の時は人目をひく、華やかさはあった。


「ぷっ。ちょっとかわいそうだから。あはは」

周りの友達がわざとらしく笑う。

意地悪く歪んだ顔で笑うあの子達を見ていると、本当にかわいそう、だなんて誰1人思ってないんだろうな…

いい獲物が見つかって、今から寄ってたかってどんな風に痛めつけてやろうか…

そんなことを考えているんじゃないかと、私は考える。


「は?」

梨央子の言葉に、顔が引きつる衣織は助けを求めるように凛子を見たけれど、凛子はうつむいたままだった。

誰も味方がいないことを悟った衣織は、いつもの勝気な要素が抜け切った、怯えた顔をしている。


「マジで騙されたわ。男に貢がせてるのかと思いきや。自腹じゃん?」


「だいたい化粧でごまかしてるだけじゃん。おかしいと思ってたし」


「やめなって、本当のこと言い過ぎ」

魔女のような笑い声が教室に響く。


衣織はもう絶望感で、今にも崩れ落ちそうな雰囲気だ。


「早朝の新聞配達に、放課後は皿洗い?苦学生並み」

クラス中がざわざわして、

「今の話マジ?がっかりなんだけど」

「ださっ」

言葉が凶器へと姿を変え、衣織を襲う。

心を切り裂くような言葉たちが。