差し出されたハンカチで、遠慮なく涙を拭くと、莉葉ちゃんの甘くていい匂いがした。


「少し座りますか?」

莉葉ちゃんは、私の顔をそっと覗き込んだ。

小さく頷くと、莉葉ちゃんは私の背中にそっと手を添えて、近くの公園のベンチまで連れて行ってくれた。


莉葉ちゃんはただ黙って隣に座っていた。かける言葉に困っているんだろうなと、思うと申し訳ない気持ちになった。


「ごめんね、おどろいたよね」

琥珀の姉として、気丈にふるまうつもりで、なるべく明るく言ったつもりが、語尾が弱々しくなってしまった。

莉葉ちゃんがパッと顔を上げて、私が泣いてないのを確認して少し安心したのがわかった。優しい子なのだ。


「何かありました?」

莉葉ちゃんの優しい雰囲気に心がほどけていく。

琥珀が莉葉ちゃんのことが好きなのがわかる気がした。


「私が、こんな悩みを持つ日が来るなんて思わなかったんだけど。好きな人ができて、そのことに気付いた時、違う人に・・・好きだって言われて。結局、みんなが傷ついて。私が、慣れていればもっとうまくたちまわれたのかもしれないのに」

もっと恋を知っていれば、こんなことにはならなかったのに。

もし、これが愛紗や衣織だったら・・・もっと違うようにことを運べたのかもしれない。

恋をしてこなかった後悔をするという、迷走しかけた時、

「それは、どうでしょう・・・」

莉葉ちゃんの返事が予想外で、どういう意味なのか知りたくて身を乗り出して聞き返した。


「どういう意味?」

「あ、ごめんなさい」

莉葉ちゃんがすぐさま謝る。


「違うの、本当に知りたくて」

私の機嫌が悪くなったのかと焦る莉葉ちゃんに笑顔を向けてそうじゃないことを証明して見せる。

それに安心した様子で、静かにゆっくりと話し始めた。


「誰かを好きになることって、慣れることはないんじゃないかなって。『好き』っていう気持ちはすごいエネルギーに満ちた気持ちだけど、その分、不安になると苦しくて切なくて心が痛かったり。好きな気持ちが強ければ強いほど、不安も、心の痛みも大きい気がします」

慣れることはない・・・

みんな私と同じなの?


「好きって気持ちを伝えたいけど、受け入れてもらえなかったら・・・って不安になったり。好きな人の前だと自信がなくなったり。好きな人の言葉一つで1日が楽しくなったり、悲しくなったり。そういう気持ちはきっとみんな持ってると思いますよ?そういう好きって気持ちを、乃々夏ちゃんにぶつけてきた人も、たぶん色んな気持ちで心がいっぱいだったんですね」


莉葉ちゃんの言葉で、加瀬君の顔が蘇ってきた。

加瀬君の気持ちを聞き流して、信じようとしなかった。

キスされたとき、もし、陽色が見てなかったら。

加瀬君の『好き』をなかったことにしようとしたかもしれない。