「眼鏡をかけて、ちょっと猫背で前髪伸ばして…って晴輝に言われたからその通りにしたんたけど」


純粋過ぎる…

加瀬君、ちょっと楽しんでたよね、絶対。

「次で決める。本当に」

陽色の真剣な顔と、加瀬君の不安そうな顔に思わず笑ってしまった。


「頑張ってね、二人がサッカーしてるの見るの好きだから」


この姿が学校で毎日見られたら楽しいだろうな。

前向きな人の気持ちに触れるとなんだかパワーもらえるものなんだな。

自然と笑顔になる。


「陽色、何赤くなってるんだよ」


アフロに肩をどつかれて陽色が、「うるさい」って言って走って行ってしまった。

ん?どういう意味?

わからないけど、私もなぜだかドキドキして顔が熱くなった。

陽色の照れた顔が、かわい過ぎたから。


陽色のことばかり目で追ってしまう。

もう、陽色しか見えないよ。

幸せな気持ちなのに涙が出そう。

どうしてだろう、なんだか気持ちがあふれて涙になるみたい。

目を潤ませながら、キラキラ眩しい陽色の姿を眺める。


みんなも陽色を追いかけて走って行った。


「また、そんな顔して」


声の方へ顔を向けると、加瀬君が私の隣に座った。


「その顔、わざとしてる?」

加瀬君の言っている意味が分からない。

怒ってるのかな?私、なにかした…?

加瀬君の顔がちょっと苦しそうで、寂しそうに見えた。


無言のまま首を横に振った。


すると、今度は私の心を見透かしてそうな、生意気そうな表情で笑ってる。

小悪魔が前面に出てきている、加瀬君。


「加瀬君、私が陽色の邪魔をしてると思ってるんでしょ?もしかして、陽色に近づかせないために最近変な態度とってる?」

口をとがらせて、不満そうに言った。

私の言葉に加瀬君の表情から笑顔が消える。

なんか、ちょっと怖い。


「そう。陽色の奴、乃々夏ちゃんに惹かれてる。ノーマークだったんだよ、乃々夏ちゃんは。だって普通だったから。可もなく不可もない。だから逆に印象にも残りにくい」


加瀬君、無表情ですごくひどいこと言ってますけど。

どういうつもりでそんなこと言ってるんだろう。

もしかして、実はめっちゃ腹黒なパターン?

それとも、陽色のことが好き?牽制されてるのかな…


「なのにさ、乃々夏ちゃんは変わってった。作り笑顔がなくなって、陽本気で怒ったり笑ったりしてさ。子供みたいに。そのくせ、さっきみたいなかわいい顔したり。だから、陽色から離そうとしてたのに」


加瀬君は陽色のことをすごく好きなのだ。

サッカーも陽色も、大好きなんだ。

そんなこと心配しなくてもいいのに。


「陽色は、私のこと何とも思ってないよ。だから心配しなくても・・・」

私の言葉を遮って、私の顔も見ないまま苦しそうに、加瀬君は言った。


「違うんだよ。俺が、乃々夏ちゃんを好きになっちゃったんだ。見張ってるつもりが、いつの間にか目で追ってるんだよ」


加瀬君が?私を?

そんなこと、あり得るはずがない。


「またまたぁ。そんなウソつかなくても大丈夫だよ。陽色の邪魔はしないから」


加瀬君の顔を覗き込んで笑うと、加瀬君はこっちを見て寂しそうな顔をした。

絞り出すような声で、

「嘘なら良かった・・・俺は、陽色のことが大事なのに。今、陽色のこと傷つけようとしてる」


そう言って加瀬君は私の肩を掴んで・・・