縁〜サイダーと5円玉と君の靴ひも〜

「私のことなんて、興味ないでしょ?」

加瀬君と話すことなんて最近までなかった。

加瀬君の視界に私が入ることさえほとんどなかった。

遠い存在だった。今でも、そうだけど。


加瀬君は触れた私の手を眺めながら、少し笑った。

この手を振りほどいていいのか、振りほどくことで逆に自分が思い上がってることになりそうで…

ふりほどけない。


「最近、乃々夏ちゃん変わったじゃん。今まではなんていうか不満そうなつまんなそうな顔しててさ」


つまらなかったもんな、実際。

勝手に握られてるのに、私の方が手に汗かいてきちゃった。

からかわれてるのか、加瀬流のスキンシップ?

何考えてるんだろう。


「でも、今はすごく自然体でやっと本当の乃々夏ちゃんを知れたような気がする。しかもすごく純粋で・・・初めて素の顔見た気がした。特に昨日の表情は、やばかった」

少し照れたような顔。
私からふいっと目線をそらすしぐさ。

加瀬君というマスコット的な存在に近かった人が、みるみるうちに男へと変化して急に生々しくなってきた。


手が熱い。


「いや、いやいや・・・騙されないからね、私。加瀬君そんなことばっかり言って私の反応見て楽しんでるだけじゃん」

おっと、あぶない。
何?罠?

この人、私を面白がってるだけだもん。

わかってるんだから、加瀬君は小悪魔だって。

「悪ふざけはもうおしまい」

私はパッと手を引っ込めた。

少し仏頂面で加瀬君の顔を見ると、私の目をまっすぐ見る加瀬君の瞳に自分が見えた。


「俺・・・そこまでチャラくないよ」


恋してるはずないのにこのドッキドキする自分の胸に、さらに動揺が止まらない。

いつからそんな尻軽になったんだ!
自分に喝を入れる。

どう返しても、私の言葉をすり抜けて返ってくる加瀬君の言葉。

終わらないこのやり取りに、初心者の私はとうてい太刀打ちできない。


「俺は、昨日から乃々夏ちゃんとキスしたいなって思ってる」

顔がぼっと熱くなった。

な、何言ってんだ、この人は。


静まれ、私の心。

赤くなってんじゃないよ!私!


「私、そういうの上手に返せないから」

おどおどしている自分が腹ただしい。


「慣れてないから、こういうちょっと大人な会話。加瀬君が満足するようなおもしろい返しとか私、できないから。もう・・・」


加瀬君の顔が近づいてきて・・・

私はまた体が固まって動かない。


このまま、キスしちゃうの?

ファーストキスなのに?