縁〜サイダーと5円玉と君の靴ひも〜

陽色の腕にしがみついたままだったことを思い出して、慌てて手を放した。

すると、陽色は私の肩を軽く押してドアの方へ誘導していく。


満員電車の中、陽色はドア側に私を立たせてドアに手を置いて体を支えていた。

あら、これってなんだか、漫画やドラマでよく見る光景?


私は陽色の腕の中・・・というシチュエーションが出来上がり、恥ずかしくてたまらなかった。

でも、こっそり陽色を見上げるとこんなに背が高かったんだな。

鼻筋が通ってる。

意外と口角が上がっている。


肌、きれいだな…

腕が長い。
指もきれいな形で長いんだ。


そして、やっぱりいいにおいがする。


「見過ぎ」


陽色がぽつりとつぶやいて私は慌てて視線を下に向けた。


今日の陽色、なんか変だよ。
教科書とお友達で、猫背で、存在感の薄い陽色はどこに行ったんだよ。

私の目には、陽色はもうちょっとカッコよく映っちゃってんだけど。



「次の駅で、降りるから。ありがと」

陽色の顔見れない。


「俺もここに用事があるから」

そう言って一緒に電車を降りた。


「なんの用事?」

陽色は顔色一つ変えずに、

「本屋」


そう答えて歩き始めた。


「隙だらけすぎ。男は相内が思ってる以上に相内のこと女として見てんだよ」

陽色、ちょっと不機嫌?


「うん」


素直に言うこと聞いてみた。


なんかいい、この感じ。一瞬恋人気分だったり。

むしろ私が変だな。


「じゃあね、ありがとう」

結局陽色は私の家の近所まで来て、本屋へと歩いて行った。


「遠回りになるじゃん。もしかして送ってくれたのかな」


陽色の後ろ姿を見ながら、やっぱり胸がきゅっとなった。